【推しの子】をおすすめしたい!

イントロダクション

『この芸能界せかいにおいて嘘は武器だ』

地方の産婦人科で働く医師・ゴローは、アイドルグループ『B小町』のセンター・星野アイの熱心なファンでした。患者の病室でライブDVDを流してしまうほどの筋金入りのオタクで、日々の充実した生活を送っていました。

そんなある日の診察で、ゴローに衝撃が走ります。担当患者として現れたのが、なんと推しのアイ本人だったのです。しかも彼女は妊娠中というとんでもない秘密を抱えており、父親が誰なのかも明かせない事情を持っていました。

医師として秘密を守りながらアイを支えていたゴローでしたが、出産の日を目前に、ある人物に崖から突き落とされ命を落としてしまいます。

次に目を覚ましたとき、ゴローはアイの息子として産声を上げていました。

前世の記憶を持ったまま、推しの子供に転生した産婦人科医の物語。アイドルから映画制作まで、芸能界の裏側をリアルに切り取った転生サスペンス『【推しの子】』を記事にしました。

原作は赤坂アカ×横槍メンゴ(以下敬略称)。赤坂アカにとっては『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の連載と並行して執筆された、異例の2作同時週刊連載作品です。『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて2020年21号から2024年50号まで連載され、単行本は全16巻で完結しました。

テレビアニメは2023年4月から動画工房制作で第1期が放送。監督は平牧大輔、シリーズ構成・脚本は田中仁、キャラクターデザインは平山寛菜、音楽は伊賀拓郎。その後第2期(2024年夏)、第3期(2026年冬)と続いています。

本作の魅力について、監督の平牧大輔は『まずはキャラクターの目です。原作マンガには目の中に星があって、それをどうアニメにするかについてキャラクターデザイナーの平山寛菜さんと話し合ったとき、これはもう完全再現でいきたいと。マンガならではの表現なので普通はやらないんですけど、あえて目の中の星を生かしたんです』とコメントしています。

また、芸能界の闇を描くことへの姿勢については『闇を暴いてやろうと喧嘩を売っているわけではありません。芸能界同様、ちゃんとした人じゃないと生き残っていませんから。そこは、現実と『【推しの子】』の世界が明確に違う部分だと感じているので、作り手としても安心感を持ちながら制作できています』と語っています。

また第1話が90分という異例の長さで放送されたことについては、『スタッフみんなが漫画1巻を細切れにして放送したくないという思いがあり、1巻をまるまる映像化してのスペシャルとして放送することは最初の段階から決まっていた』と明かしています。

第1期のオープニングテーマはYOASOBIによる『アイドル』で、MVは公開約1ヶ月で再生回数1億回を突破するなど社会現象となりました。実写ドラマ版も2024年にAmazon Prime Videoにて配信されています。




あらすじ(序盤のネタバレを含む)

地方の産婦人科医ゴローは、アイドルグループ『B小町』のセンター・星野アイの熱心なファン。充実した日々を送っていた彼のもとに、ある日アイ本人が担当患者として現れます。しかも妊娠中という、誰にも明かせない秘密を抱えて。

医師として秘密を守りながらアイを支え続けたゴローでしたが、出産予定日の直前に何者かに崖から突き落とされ、命を落とします。

次の瞬間、ゴローはアイが産んだ双子の息子として生まれ変わっていました。前世の記憶を持ったまま、推しの子供に転生してしまったのです。星野愛久愛海(通称:アクア)として生まれたゴローは、混乱しながらも推しの成長を間近で見られる日々に馴染んでいきます。

またアクアの双子の妹・星野瑠美衣(ルビー)もまた転生者でした。前世では病院に入院中だった少女・さりなが、ゴローの患者として亡くなった後にルビーとして転生していたのです。

やがてゴローが幼稚園ほどの年齢になったころ、アイは自宅に押しかけてきたストーカーに刺殺されました。

母の死をその目で目撃したアクアは、確信します。自分を崖から突き落とした一件と、アイを殺したストーカーを操った黒幕は同一だ、と。アクアは自らの命を懸けて、アイを殺した張本人を探し出す復讐を誓います。

芸能界への扉を開いたアクアは、その世界の内側から真相を追いはじめます。

作風・感想

一見すると転生ものの設定を持つ作品ですが、物語が進むにつれて転生という要素はむしろ薄れていき、芸能界を舞台にしたサスペンス・お仕事もの・ヒューマンドラマとしての色が濃くなっていきます。

芸能界の裏側の描き方

芸能界の華やかな部分だけでなく、そこに潜む闇や矛盾をリアルかつ具体的に描いています。

アイドル活動における炎上とSNSバッシングの恐ろしさ、恋愛リアリティショーという番組形式が出演者に与える精神的プレッシャー、2.5次元舞台における原作ファンとの軋轢、映画制作における監督と役者の権力関係。こういった題材が、ファンタジーでも誇張でもなく、地に足のついた描写で次々と登場します。

読んでいると、芸能界というものがどういう構造で動いているのかが少しずつわかってくる感覚があります。派手な嘘や陰謀というよりも、システムとしての歪みや、善意の人間がそれに飲みこまれていく過程が丁寧に描かれているのが特徴です。

嘘という武器

本作のもうひとつの軸は、『嘘』というテーマです。

アイはファンに対して『みんなのことが大好き』と言い続けながら、実際にはその言葉の意味を自分でも疑っていました。それでも言い続けるうちに、やがてその嘘が本当に変わっていく。そのアイの在り方が、本作全体を貫く『嘘とは何か』という問いの出発点になっています。

芸能界においてはキャラクターを演じることが求められ、素の自分を出すことが必ずしも正解ではありません。恋愛リアリティショーで出演者が追い詰められていく過程や、演者が『演じること』と向き合うエピソードは、どこまでが嘘でどこからが本当か、という問いを様々な角度から掘り下げています。

アクアもまた、復讐のために別の人間を演じ続けます。嘘をつくことが生存戦略になっている世界で、各キャラクターが自分の嘘とどう向き合うかが、物語の骨格を形成しています。

序盤の衝撃

第1期のアニメは第1話が約80分という異例の長さで、アイの死までを一気に描き切ります。この構成が絶妙で、アイというキャラクターへの愛着が十分に生まれたところで突然の喪失が訪れます。それまでの温かみのある雰囲気が一変する落差の大きさが、本作を単なる転生ものとして片付けられない理由のひとつです。

序盤を見終えた後、『推しの子』というタイトルの意味が複数の層で重なって見えてきます。

登場人物

星野ほしのアクア

声:大塚剛央(幼少期:内山夕実)。本作の主人公で、前世は産婦人科医のゴロー。

母・アイを殺した黒幕を探し出す復讐を胸に芸能界へ入り、俳優として活動しながら真相を追います。前世の大人の知識と記憶を持つため、幼少期から周囲に対して一歩引いた視点を持っています。感情を表に出さず、常に冷静で計算高い印象があるが、それはアイを失った悲しみを復讐の燃料に変えて動き続けているからです。

真相に近づくにつれ、復讐のために人を利用することへの葛藤も描かれていきます。目的に向かって突き進む強さと、自分を傷つけ続けることへの痛みが同居しているキャラクターです。

星野ルビー

声:伊駒ゆりえ(幼少期:高柳知葉)。アクアの双子の妹で、前世はゴローの患者だった少女・さりな。

前世からアイの大ファンで、アイドルになることへの夢を純粋に持ち続けています。アクアが復讐に囚われた暗い目をしているのに対して、ルビーは前向きで明るく、ステージに立つことへの喜びを全身で表現しているのが印象的です。アイのグループ名を受け継いだ新生『B小町』の中心として、アイドルとしての道を歩んでいきます。

ただし明るいだけではなく、母の死や自分の転生という事実に向き合う場面では、さりなとしての記憶と感情が顔を出します。そのギャップが、ルビーというキャラクターの奥行きを作っています。

星野アイ

声:高橋李依。アイドルグループ『B小町』のセンターで、物語の出発点に位置するキャラクターです。

圧倒的なカリスマ性を持ち、ファンに向けて『みんなのことが大好き』と言い続けるアイドルだが、その裏では愛情というものの意味を自分でも摑みきれていない孤独を抱えています。

序盤で退場するキャラクターでありながら、その存在は物語全体を通じて中心にあり続けます。アクアとルビーそれぞれの動機の根源であり、本作のテーマの象徴でもあります。

まとめ

転生ものという入り口から始まりながら、気づけばサスペンス・お仕事もの・芸能界ドラマ・ヒューマンドラマと複数の顔を持つ作品です。どのジャンルのファンにも引っかかる場所があるというのが、本作が幅広い層に支持された理由だと思います。

芸能界の裏側に興味がある方にも、サスペンスが好きな方にも、ぜひおすすめしたい一作です。