『黄泉のツガイ』をおすすめしたい!
目次
イントロダクション
『おまえの知ってるアサは偽物だ』
山深い村で、双子の妹アサと静かに暮らしていた少年ユル。朝には鳥を狩り、木々の間を駆け回り、夜には星を眺める。なにも変わらない日常が、ずっと続くと思っていました。
ある日、村の結界が破られます。武装した集団が押し寄せ、村人が次々と倒されていく。混乱のなかで現れた見知らぬ女が、こう言い放ちます。
『私が本物のアサだ』。 妹は偽物。村には秘密がある。自分が何者なのかすらわからない。すべてが崩れた瞬間、ユルの前に現れたのは「ツガイ」と呼ばれる二体一対の異形でした。
夜と昼を別つ双子の運命を描く幻怪バトルファンタジー。『鋼の錬金術師』『銀の匙 Silver Spoon』の荒川弘が、11年ぶりに古巣『月刊少年ガンガン』に帰還して放つ最新作『黄泉のツガイ』をおすすめしようと記事にしました。
概要
作者『荒川弘(以下敬略称)』。ジャンルは『幻怪バトルファンタジー』。
月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)にて2022年1月号から連載中。2026年3月時点で、ガンガンコミックスにて既刊12巻まで発売中。
2026年2月時点で単行本の累計発行部数は500万部を突破。 第7回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞 大賞。次にくるマンガ大賞2023 コミックス部門 第2位。全国書店員が選んだおすすめコミック2023 第2位。このマンガがすごい!2024 オトコ編 第2位。数々の漫画賞やランキングで軒並み上位にランクインしており、荒川弘の新作として大きな注目を集めています。
2026年4月4日から、連続2クールでテレビアニメ版が放送開始。
制作は『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST(2009年版)』『僕のヒーローアカデミア』などを手掛けた『ボンズ』。監督は『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』も担当した『安藤真裕』。シリーズ構成は『デュラララ!!』『ジョジョの奇妙な冒険(1~3部)』を手掛けた『高木登』。キャラクターデザイン・総作画監督は『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の『新井伸浩』。音楽は『Re:ゼロから始める異世界生活』の『末廣健一郎』。
つまり、ハガレン2009年版のチームが再集結しています。荒川弘ファンにとっては、これ以上ない布陣です。 オープニングテーマは Vaundy「飛ぶ時」、エンディングテーマは yama「飛ぼうよ」。どちらも Vaundy の書き下ろし楽曲で、作品の和のテイストとマッチした力強い仕上がりになっています。
あらすじ(序盤のネタバレを含む)
山奥の、外界から隔絶された小さな村。少年ユルはそこで静かに暮らしていました。双子の妹アサは村の奥にある牢のなかで「おつとめ」をしていると聞かされていましたが、ユルはその詳細を知りません。
平穏は突然、終わりを迎えます。 東の結界が破られ、武装した集団が村に侵入。村人たちが次々と倒されていきます。さらに「本物のアサ」を名乗る女がユルの前に現れ、牢にいたアサを殺害。
ユルが知っていた世界は一瞬で崩れ去ります。 混乱のなかで、村の雑用を担当するデラがユルを導きます。村の守り神である「ツガイ」――二体一対の異形の存在「左右様」と契約したユルは、武装集団を退けることに成功。
しかし村にはもう居場所がなく、ユルはデラとともに山を降り、下界へ逃れることになります。 下界で待っていたのは、さらなる混乱でした。
ツガイを巡る組織同士の対立、ユルとアサの双子に秘められた力「封」と「解」の謎、そして「本物のアサ」を名乗る女の正体。ユルは次々と現れる敵や味方のなかで、自分が何者なのかを探していきます。
作風・感想
荒川弘の帰還
荒川弘といえば、累計発行部数8000万部超の『鋼の錬金術師』で知られる漫画家です。その後『銀の匙 Silver Spoon』で農業高校の青春を描き、エッセイ漫画『百姓貴族』では自身の酪農経験をユーモラスに語りました。
本作は、荒川弘が11年ぶりに月刊少年ガンガンに戻って描くバトルファンタジーです。6巻特装版に付属したインタビュー小冊子では、ハガレン完結後に編集部に「修行して帰ってきます」と伝えていたことが明かされており、本作はまさにその約束を果たした作品といえます。
舞台がヨーロッパ風だったハガレンに対して、本作は日本の山村。錬金術の代わりに「ツガイ」という二体一対の異形が登場します。世界観はまったく異なりますが、綿密に練られた設定、テンポの良い展開、シリアスとギャグの絶妙なバランスという荒川弘の持ち味は健在です。
「ツガイ」という設定の面白さ
本作最大の特徴は「ツガイ」という存在です。ツガイとは二体一対で力を発揮する異形の存在で、人間の「ツガイ使い」と契約して戦います。
この設定が面白いのは、ツガイごとに見た目も能力もまるで違うこと。人間にしか見えないツガイもいれば、動物のような姿のツガイもいる。ツガイ使いとツガイの組み合わせも予想外で、VTuberの月ノ美兎はコミックナタリーのレビューで、人間に見えるツガイと犬がツガイ使いという組み合わせに驚き、映画『メン・イン・ブラック』を連想したと語っています。
さらに月ノ美兎は、複雑に見える物語でも、随所に挟まれるギャグのおかげで気を抜いて読める点が好きだとも述べています。真剣なバトルの最中に不意打ちのように挟まるコメディが、荒川弘の真骨頂です。
巨悪のいない混沌
ハガレンには「お父様」という明確な巨悪がいましたが、本作にはわかりやすいラスボスがいません。複数の組織や勢力が、それぞれの思惑で動いています。
誰が味方で、誰が敵なのかが読み進めるごとに変わっていく。ある勢力は利害が一致すれば協力するし、状況が変われば牙を剥く。この構造が、先の読めない展開を生み出しています。
王道の少年漫画のように「倒すべき敵」が明確にいるわけではなく、混沌とした状況のなかでユルが自分の道を探していく。それが本作独自の面白さです。
和風伝奇の空気感
ハガレンのヨーロッパ風の世界観とは打って変わり、舞台は日本の山奥。閉鎖的な村落、古くから伝わるしきたり、異形の存在。和風伝奇ものとしての空気感がしっかりと描かれています。
しかし堅苦しくはなく、ユルが下界に降りてからはカルチャーショックの連続で笑えます。コンビニに驚き、車に怯え、都会の情報量に圧倒される。
シリアスな本筋のなかに、こうした日常のギャップが自然に織り込まれているのは荒川弘ならではです。
命の描き方
荒川弘の作品に共通するのは、命に対する誠実な描き方です。ハガレンでは等価交換の原則のもとで命の重さが描かれ、銀の匙では家畜の命と向き合う少年の葛藤が描かれました。
本作でも、戦いには犠牲が伴い、判断を誤れば仲間が死にます。しかし残酷なだけではなく、失ったものを受け止めて前に進む登場人物たちの姿が、物語に力強さを与えています。
登場人物
ユル
本作の主人公。
山奥の村で育った少年で、鳥を狩るのが得意(闇夜でも当てる百発百中の腕前)。双子の妹アサとの絆が物語の中心にあります。
村が襲撃されたことで下界に降り、ツガイ「左右様」と契約して戦うことになりました。村育ちのため世間知らずだが、素朴で芯が強い。混乱のなかでも投げ出さず、自分の目で確かめようとする姿勢が共感を呼びます。
月ノ美兎はユルについて、穏やかな暮らしが奪われ、妹が偽物と判明し、命を狙われるという立て続けの不幸に見舞われた境遇に触れ、「何もかも放り出して世田谷で暮らしてほしい」とコメントしています。
それくらい過酷な状況に置かれながらも前を向くユルは、荒川弘が描く主人公らしい力強さを持っています。
アサ
ユルの双子の妹。村の牢で「おつとめ」をしていたとされますが、物語序盤で「本物のアサ」を名乗る女に殺害されます。
しかし、アサをめぐる謎は物語全体を貫く最大のミステリーであり、「本物」と「偽物」の境界が揺らいでいきます。
左右様(ツガイ)
ユルが契約する二体一対のツガイ。「右様」は屈強な男の姿、「左様」は妖艶な女の姿をしています。村の守り神として祀られていた存在で、圧倒的な戦闘力を持ちます。
こんな人におすすめ
『鋼の錬金術師』が好きだった人にはもちろんおすすめですが、ハガレンを読んだことがなくても問題ありません。
和風伝奇ものが好きな人、先の読めない群像劇が好きな人、テンポの良いバトル漫画を探している人。どれかひとつでも当てはまるなら、1巻を手に取ってみてください。
2026年4月からアニメも始まるので、アニメから入るのもおすすめです。ハガレン2009年版のチームが再集結した制作体制は、原作ファンも納得のクオリティが期待できます。
まとめ
荒川弘が11年ぶりにガンガンに戻り、和風伝奇バトルという新境地に挑んだ意欲作。
ツガイという独自の設定、巨悪のいない混沌とした世界、シリアスとギャグの絶妙なバランス。ハガレンで培った物語構成力はそのままに、まったく新しい作品として楽しめます。
2026年4月のアニメ化を機に、原作もアニメも両方追いかけてみてはいかがでしょうか。


















ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません