『機動警察パトレイバー2 the Movie』をおすすめしたい!
目次
イントロダクション
『特車二課第二小隊最後の出撃だ。存分にやれ』
1999年、東南アジア某国。PKO部隊として派遣された陸上自衛隊のレイバー小隊が、反政府ゲリラの攻撃を受けます。本部からの発砲許可は下りないまま、小隊は一方的に攻撃され壊滅します。独断で敵装甲車に反撃し、たったひとりの生存者となった小隊長は、異教の神像が見下ろす古代遺跡の前に立っていました。その男の名前は、柘植行人。
それから3年が経った2002年冬の東京。バビロンプロジェクトはすでに終了しており、かつての特車二課第二小隊のメンバーは、隊長『後藤』と山崎を除いてそれぞれ新しい職場に異動しており、南雲も警部昇進と同時に課長代理に就任しました。
がらんとした特車二課に残った後藤が、静かな日々を送っていたそのとき。南雲の眼前で、横浜ベイブリッジが爆破されます。
当初は自動車爆弾かと思われましたが、やがてテレビが報道したのは、航空自衛隊の支援戦闘機から放たれたミサイルによるものだという衝撃的な事実でした。しかしその後、自衛隊機を装った米軍機が、巧妙に誘導されて攻撃を行ったのだということが明らかになります。さらにその背後には、防衛システムへのハッキング、仮想空爆、橋梁への爆破工作と、緻密に計画された一連の工作の存在が浮かびあがります。
そして後藤と南雲の前に現れたひとりの男、荒川。陸幕調査部別室に属するこの人物が持ちこんだのは、行方をくらませていた柘植行人の名前でした。
『戦争は終わっていない。ただ、場所が変わっただけだ』
平和に見えるこの都市の内側で、何かが静かに動きはじめていました。
押井守が前作からさらに踏みこんだ、都市と戦争と平和をめぐる政治的SFサスペンス、『機動警察パトレイバー2 the Movie』を記事にしました。
監督は引き続き押井守。脚本は伊藤和典。音楽は川井憲次。制作はProduction I.G。配給はバンダイビジュアル=東北新社=イング。
公開は1993年8月7日。上映時間は約113分。前作よりも上映時間が長く、アクション描写よりもさらに対話と思想に比重が置かれた作品になっています。
本作は単体でも成立するよう作られています。ただし、特車二課というチームの空気感や各キャラクターへの理解があると、終盤の展開がより深く刺さります。前作と合わせて見ることをおすすめします。
あらすじ(序盤のネタバレを含む)
2002年冬の東京。横浜ベイブリッジが爆破される事件が発生します。その後も都内各地で、防空システムへのハッキングや電波妨害による仮想空爆、橋梁への爆破工作など不審な事件が続発します。
警察と自衛隊の対立は深まり、政府は実戦部隊に治安出動命令を下します。都内各地に自衛隊の部隊が配置され、橋には戦車が並び、上空には戦闘ヘリが飛ぶという、平和都市とは到底思えない光景が広がりはじめます。
この混乱の中、後藤と南雲の前に陸幕調査部別室の荒川という人物が現れます。荒川が語るところによれば、ベイブリッジの爆破は本来、アジアの軍拡競争に危機感を覚える国防族や米国勢力が仕組んだ『軍事的茶番劇』でした。実際に空爆する意思はなかったはずが、そこに割り込み計画を改変して本当に爆破を実行したのが、柘植行人だというのです。
柘植はかつて『柘植学校』と呼ばれる多目的歩行機械運用研究準備会を立ち上げ、戦場におけるレイバーの軍事的有用性を実証した人物です。そして1999年のPKO任務で部下を全員失い、自衛隊を去って以来行方をくらませていました。また、かつて柘植学校に派遣されていた南雲と不倫関係にあり、それが原因で南雲が特車二課に左遷されたことは、本庁内では公然の秘密でした(初期OVAなどの既存作品との描写とは矛盾しているので、本作のオリジナル要素)。
真相の公表を渋る政府、暴走する警察上層部、対立を深める自衛隊。東京が戦時下の様相を帯びていく中、後藤は荒川の真意を測りながら、散り散りになった旧第二小隊のメンバーを集めはじめます。
作風・感想
前作がミステリ的な捜査劇だったのに対して、本作はより直接的に政治と思想を扱っています。『戦争とは何か』『平和とは何か』『この都市は本当に安全なのか』という問いが物語全体を貫いており、かなり人を選ぶ映画です。
現場の人間『(元)第二小隊員』は後景に据えられており、現場と上層部の間で板挟みになる『後藤や南雲』が主役になっている作品でもあります。
平和という幻想
本作の核心にあるのは、日本の『平和』に対する根本的な問いかけです。東京という都市は表面上は豊かで安全に見えます。しかしその平和は、戦争の記憶を切り捨て、目を背け続けることで成り立っているのではないか。柘植が仕掛ける一連の工作は、その偽りの平和を白日の下に晒すための装置として機能しています。
戦車が橋を渡り、戦闘機が都市の上空を飛ぶ。それだけで東京という街がいかに脆いかが露わになります。特別な爆発も大規模な破壊もなく、ただ軍事的な存在が都市に現れるだけで、日常が一瞬にして崩れ落ちる。その描写の冷静さが、かえって恐ろしいです。
製作当時は湾岸戦争から数年後という時代背景もあり、戦争が遠い出来事ではないという肌感覚が作品に染みこんでいます。現代でも、なんらかの非日常的な事態が起きたタイミングで見ると、また違った重さで迫ってくる作品です。
後藤と荒川の駆け引き
本作の最大の見どころのひとつは、後藤と荒川というふたりの人物の関係です。ともに組織の中でひっそりと動く人間で、表に出ず、派手なことはしません。しかし互いの思惑を探りながら情報を交換するやりとりは、本作の中でもっとも緊張感のある場面のひとつです。
荒川のセリフ量は突出しており、ある意味では本作の語り部として機能しています。戦争と平和について、日本の安全保障について、淡々とした口調で語る荒川の言葉は、難解でありながら一度聞くと頭から離れません。後藤はその語りを聞きながら、荒川が何を目的としているのかを常に探り続けます。協力しているようで利用しようとしているようにも見える。どちらが主導権を持っているのか最後まで宙吊りのまま進んでいく緊張感が、本作のドラマの底流を作っています。
南雲と柘植、そして後藤
本作でもうひとつ重要な軸になっているのが、南雲と柘植行人の関係、そしてそこに絡む後藤の存在です。南雲はかつて柘植と不倫関係にあり、それが原因で特車二課に左遷された過去を持ちます。柘植にとって南雲は特別な存在であり、南雲にとっても柘植は単純に追うべき犯人とは言い切れない相手です。
後藤はそのことを知りながら、南雲を捜査に巻きこみます。なぜ後藤がそうするのか、そこにどんな感情があるのかは、明確には語られません。しかし終盤、南雲が柘植に手錠をかける場面は、アクション的な盛りあがりとは別の種類の静かな重さがあり、三者の関係の積み重ねを知っているほど、言葉なく胸に刺さります。
アクションについて
本作でパトレイバーが実際に動く場面は、前作よりもさらに少ないです。冒頭とクライマックスに数分間挿入されるのみで、それまでは対話・捜査・政治的な状況の推移が物語の中心を占めます。
ただし、動いたときの密度と緊張感は前作に劣りません。夜の東京、雪の降る橋の上と橋の下、水辺。ロケーションのひとつひとつが丁寧に選ばれており、機体の動きと環境の質感が合わさって独特の迫力を生んでいます。前作同様、機械の重さや物量感の描写がていねいで、鉄の塊がぶつかり合うような感触があります。
また本作ではイングラムが『試作機』であるという事実が物語に絡んできます。実働テストが終われば御役御免になる機体。だからこそ最後の戦力として頼られるという流れに、なるほどと唸らされます。
登場人物
後藤 喜一(ごとう きいち)
声:大林隆介。特車二課に残り続ける指揮官で、本作の実質的な主人公といえる人物です。
今まではどこか余裕のある飄々とした印象でしたが、本作では組織の中でより孤立した立場に置かれています。第二小隊は事実上の解散状態、人員も減り、がらんとした特車二課で山崎とともにひっそりと日々を過ごしている。それでも動じることなく、静かに状況を読み続けます。
南雲 しのぶ(なぐも しのぶ)
声:榊原良子。本作では警部に昇進し課長代理として別の部署に異動しています。
本作の南雲は、今までの作品よりも内側の感情が少しだけ見えます。組織の中で正しく機能しようとする意志と、かつての恋人である柘植への複雑な感情と、後藤という人間への長年の信頼が、セリフと表情の隙間から滲み出ます。
荒川(あらかわ)
声:竹中直人。陸幕調査部別室に属する人物で、後藤と南雲に柘植の情報を持ちこみます。
後藤に協力しているのか利用しようとしているのか最後まで判然としないまま、物語全体にわたって存在感を発し続けます。
柘植 行人(つげ ゆきひと)
声:根津甚八。本作の事件を仕掛けた元陸上自衛官で、直接の登場シーンは限られているが、その人物像は荒川の語りと関係者の証言を通じてていねいに描かれます。
まとめ
前作がミステリ的な捜査劇だったとすれば、本作はより直接的な政治サスペンスです。ロボットアニメとしての要素はさらに後退し、戦争・平和・国家・都市といった重いテーマが全面に出ています。気軽に楽しめる娯楽作品ではありませんが、その分だけ見終えた後に残るものが大きいです。
後藤と南雲というふたりの人間の関係を軸に、じっくり腰を据えて見てほしい一作です。















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