
原作:阿部暁子(装画 syo5/集英社オレンジ文庫)
小説:シリーズ3冊(2017年10月/2018年10月/2026年6月)
漫画:チノハルカ・既刊1巻(2巻は2026年9月17日発売)
映画:2026年10月9日(金)公開・配給 松竹
『どこよりも遠い場所にいる君へ』を調べると、まず引っかかるのが冊数です。シリーズは3冊あるのに、背表紙に「1」「2」「3」と番号が振られていません。物語の結末には触れずに、3冊の関係から順に整理していきます。
小説は3冊。ただし番号は付いていない
集英社オレンジ文庫から出ている小説は、次の3冊です。
| 刊行 | タイトル | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2017年10月20日 | どこよりも遠い場所にいる君へ | 本編。映画の原作 |
| 2018年10月19日 | また君と出会う未来のために | 本編と対になる物語。主人公は別 |
| 2026年6月19日 | まだいない君に星の舟を | 前日譚の表題作+スピンオフ4編 |
「何巻まで出ていますか」と聞かれると答えにくいのは、この並びのためです。1冊目で物語は完結していて、2冊目と3冊目はそこから枝分かれしています。
そもそも、どんな話なのか
舞台は豊かな自然にあふれた離島・采岐島です。とある事情で都会を離れ、島の高校に進学した少年・月ヶ瀬和希は、ある初夏の日、島にある「神隠しの入り江」で一人の少女が倒れているのを見つけます。少女の名前は秋鹿七緒。1974年から来たという七緒は、その場に居合わせた高津という男性に保護されることになります。
気になって放課後にたびたび七緒のもとを訪れるようになった和希は、やがて彼女から驚きの言葉を聞かされます。ジャンルはボーイミーツガールで、そこにタイムトラベルが絡みます。矢野顕光役の岡本信彦さんは、切なさとミステリーが混ざり合う青春SFで、その手の話が好きな人にはとくに刺さる、という言い方をしています。
和田監督は、登場人物がそれぞれに癒えない孤独や痛みを抱えていること、そのうえで誰かを強く想い、また誰かに想われる瞬間に生まれる「切なさと温かさ」を描きたい、と語っています。七緒を演じる永瀬アンナさんは、触れられそうで触れられない、触れてしまったら壊れてしまいそうな距離感、という表現をしています。作品の手ざわりは、この2つの言葉がよく表しています。
2冊目は「続編」なのか、という話
この2冊目は、呼ばれ方が一つに定まっていません。集英社の紹介では、『また君と出会う未来のために』は1冊目と対になる物語と説明されています。主人公は仙台の大学に通う支倉爽太。爽太には9歳のころに海で溺れ、遠い未来である2070年の世界へ迷い込んだという過去があります。
つまり1冊目が過去から人が来る話なのに対して、2冊目は未来へ行った人の話です。時間の向きが逆になっています。
とはいえ完全に切り離された別作品でもありません。1冊目の和希も顔を出します。主人公を入れ替えたうえで、同じ世界の話がもう1本走っている、という関係です。
阿部さん自身は、1冊目が予想外に売れたので続篇を書きましょうと言われて2冊目を書いた、と刊行の経緯をインタビューで語っています。「続編」と呼ばれることがあるのはこのためです。刊行の流れとしては続篇、物語としては対になる別の話、と受け取っておくと迷いません。
2冊目・3冊目はそれぞれ単体でも手に入ります(Amazon また君と出会う未来のために/Amazon まだいない君に星の舟を)。
どれから読む? 3つの入口
映画を観る前に原作を読みたい人
1冊目の『どこよりも遠い場所にいる君へ』だけで足ります。映画の原作はこの1冊で、物語もここで完結します。1冊で読み切れるので、10月9日の公開までにはじゅうぶん間に合います(Amazon Kindle 1冊目/楽天Kobo 1冊目)。
1冊目を読み終えて、もっと浸りたい人
2026年6月に出た『まだいない君に星の舟を』が向いています。表題作は1冊目より前の采岐島を描いた前日譚で、本編に出てくる人物の少年時代が主人公です。ほかにスピンオフが4編収録されています。先に読むと1冊目の仕掛けのほうが見えてしまうので、順番は必ず1冊目のあとにしてください(Amazon まだいない君に星の舟を)。
作品世界ごと追いかけたい人
刊行順に3冊です。2冊目は主人公も時間の向きも変わるため、1冊目の続きを期待して開くと肩透かしになります。同じ作者が同じテーマで書いたもう1本、と思って読むほうが噛み合います。3冊まとめて買うなら紙のセットが出ています(Amazon 3冊セット/楽天 3冊セット)。
なぜ「過去から人が来る」話になったのか
この作品は、担当編集者からの一言で始まっています。阿部さんはインタビュー連載「作家の読書道」で、担当者から眉村卓さんの『ねらわれた学園』のようなジュブナイルを書かないかと提案された、と経緯を語っています。
引き受けたあとで『ねらわれた学園』を読むと、そちらは未来から人が来る話だった。あまり被ってもと考えて、過去から人が来る話にしようと決めた。それが出発点だったそうです。七緒が1974年から来た少女である理由は、ここまでさかのぼります。
阿部さんはタイムトラベルものをほとんど読んでいなかったため、海外のSF作品や高畑京一郎さんの『タイム・リープ あしたはきのう』を読んで臨んだこと、辻褄を合わせるのがものすごく大変だったことも同じ場で話しています。安請け合いをした自分を恨んだ、という言い方までしています。
なお阿部さんは、2025年に『カフネ』で第22回本屋大賞を受賞した作家です。『どこ君』は受賞のはるか前、2017年の夏に書かれた作品にあたります。
漫画は連載中。2巻の発売は9月17日
コミカライズはチノハルカさんが担当し、2025年8月6日から『となりのヤングジャンプ』で連載が続いています。単行本は1巻が2026年2月19日に出ていて、2巻は2026年9月17日発売。映画公開の3週間ほど前にあたります。
小説と漫画のどちらから入っても構いません。ただし漫画はまだ刊行の途中です。結末まで見届けたいなら、1冊で完結している小説のほうが早く着きます。

チノハルカさんの絵で采岐島を見たい方はこちら。9月17日の2巻まで読んでから映画館に向かう、という追い方もできます。
映画は10月9日公開。原作をそのままはなぞらない
アニメーション制作を手がけるのはトムス・エンタテインメント第6スタジオです。監督は『HIGH CARD』シリーズの和田純一さん、脚本は『ストロボ・エッジ』『ジョゼと虎と魚たち』の桑村さや香さん、キャラクターデザイン・総作画監督は『超かぐや姫!』のへちまさんが務めます。音楽は中村弘二さんで、主題歌と劇中歌はどちらもシンガーソングライターのとたさんの書き下ろし、それぞれ「オリーブ」「鳳仙花」です。
阿部さんは、原作小説と映画はまったく同じではない、忠実にストーリーをなぞるものにはしないでもらえたことを喜んでいる、という趣旨のコメントを公式に寄せています。和田監督のほうも、原作にはないシーンが入っていること、そのシナリオを阿部さんから良かったと言ってもらえたことを取材で話しています。
つまり小説を読んでいても、映画で初めて見る場面があるということです。
映画の内容を小説で読める『映画ノベライズ』も、集英社みらい文庫から2026年10月7日に発売予定です。さし絵入りで、公開の2日前に並びます。
舞台の采岐島は、島根県の隠岐がモデル
和田監督は取材で、采岐島のモデルは島根県の隠岐諸島だと語っています。何日も島に入り、植生や建物の色まで調べたそうです。とくに高津の家の周辺には、島が営んできた歴史の跡を色濃く出したとのことでした。
おもしろいのは、島をまるごと写実で描いてはいない点です。和希と七緒が出会う「神隠しの入り江」については、日本海の色ではなくインドネシアやハワイのような南国の色彩を意識した、と監督は説明しています。現実のリアリティと、心象風景に寄ったファンタジーの色を、場所によって使い分けているわけです。
高津を演じる玉木宏さんにとっても隠岐は縁のある土地で、祖父母が住んでいて幼い頃から毎年通っていた場所だといいます。日本の原風景と、少し神秘的なものを感じる場所だ、というのが玉木さんの言葉です。
登場人物と、映画のキャスト
月ヶ瀬和希(CV:石橋陽彩)
采岐島高校の1年生。とある事情から周囲に心の壁を作っていますが、誰にでも対等に優しいため、クラスメイトからは「王子」と呼ばれて慕われています。演じる石橋陽彩さんは『リメンバー・ミー』で主演を務めました。
和田監督が一番大切に描いているのは「和希視点で見た七緒」だと話しています。和希は感情を表に出すのが苦手で、泣きたくても涙を堪えるタイプ。逆に七緒は感情を表に出す子で、「七緒は泣くけど和希は泣かない」という対比が映えるように作った、とのことです。
秋鹿七緒(CV:永瀬アンナ)
警戒心が強く、当初は和希にも距離を取ります。それが交流のなかで少しずつ変わっていく人物です。
尾崎幹也(CV:土屋神葉)
和希とは中学時代からの友人で、同じく1年生。いつも和希を気にかけていて、同級生から「乳母」や「執事」と言われるほど世話を焼きます。
高津(CV:玉木宏)
和希が入り江で出会った男性。ぶっきらぼうですが面倒見はよく、身元の分からない七緒の保護を引き受けます。和田監督によると、かなり初期の段階から玉木さんを想定して絵コンテを描いていたそうです。
仁科(CV:藤木直人・友情出演)
和希のクラスの担任で英語教師。周囲に一線を引く和希を常に気にかけています。高津とは幼馴染です。
そのほかの面々
和希のクラスの学級委員長・三島たまきを上坂すみれさん、寮のルームメイトである相葉修治を羽多野渉さん、同じくルームメイトの矢野顕光を岡本信彦さん、和希に何かと突っかかる須賀ヨシキを松岡禎丞さんが演じます。
よくある疑問
Q. 小説は何冊まで出ていますか
3冊です。ただし続き番号ではなく、1冊目で物語は完結します。2冊目は対になる別の話、3冊目は前日譚とスピンオフをまとめた1冊です。
Q. 映画だけ観ても話は分かりますか
分かります。映画の原作はこの1冊だけなので、前提として押さえておくべきシリーズ作はありません。
Q. 原作を読んでから観たほうがいいですか
どちらでも構いません。原作にはない場面が入ると監督が明言しているので、読んでから観ても新しいものがあります。映画から入る場合は、公開2日前に出る『映画ノベライズ』が読み返しの受け皿になります。
Q. 映画ノベライズと原作小説は、どちらを読めばいいですか
原作小説は阿部さんが2017年に書いた本、映画ノベライズは映画の内容を文章にしたものです。監督が原作にはない場面を入れたと話している以上、中身は同じになりません。物語そのものを知りたいなら小説、観たあとの映画をもう一度たどりたいならノベライズ、という選び分けになります。
Q. 配信で観られますか
本作は劇場アニメで、まだ公開前です。配信の予定は発表されていません。
こんな人におすすめ
- ひと夏で終わる、切なさの残るボーイミーツガールが好きな方
- 離島や地方の空気感を、風景ごと味わえる物語を探している方
- タイムトラベルものでも、理屈より人の気持ちのほうを厚く読みたい方
- 1冊で完結する作品から作家に入ってみたい方(阿部暁子さんは『カフネ』で本屋大賞を受賞しています)
- 10月の映画公開までに原作を追いつかせておきたい方
まとめ
迷ったら1冊目だけで足ります。3冊は続き番号ではないので、順番に追わなければいけない作品ではありません。
漫画の2巻が9月17日、映画ノベライズが10月7日、映画本編が10月9日。この秋は入口が続けて増えますが、どこから入っても、たどり着く先は同じ島のひと夏です。
1974年から来た少女が何を抱えていたのか。そこは、読んでから知るほうがずっといいはずです。
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映画の原作は1冊目です。読み終えて世界に戻りたくなったら3冊目、同じテーマのもう1本を読みたくなったら2冊目、という進み方になります。

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