『機動警察パトレイバー the Movie』をおすすめしたい!
目次
イントロダクション
薄暗い工事現場。遠くに見える無数の高層ビルを見ながら、高台でひとりの男が静かに笑っています。その表情はほとんど見えず、やがて高所からその身を空に躍らせました。
1999年の東京。大型作業用ロボット『レイバー』が土木・建設・物流などの産業に広く普及し、都市の風景そのものを変えていました。首都圏では東京湾岸に人工島『方舟』を建設するという大規模プロジェクト『バビロンプロジェクト』が進行中で、無数のレイバーが昼夜を問わず稼働しています。
そんなある日、レイバーが突然暴走を始めるという事件が相次ぎます。調査の結果、原因として疑われたのは、搭載されたOSの中に仕込まれた、あるプログラム。
レイバー普及後に増えた『レイバー犯罪』に対処するために作られた警察の特殊部隊『特車二課』は、事態の解明に乗り出します。しかし調査を進めるほどに浮かびあがってくるのは、HOSの開発に深くかかわっていたひとりの天才プログラマーの影でした。すでに東京湾に飛びこんで死亡している、帆場暎一という男の。
押井守が描いた社会派SFポリスアクション『機動警察パトレイバー the Movie』を記事にしました。
監督は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『攻殻機動隊』を手掛けた押井守(以下敬略称)。原作は『ヘッドギア』(ゆうきまさみ・高田明美・伊藤和典・出渕裕・押井守)。脚本は伊藤和典。音楽は川井憲次。制作はI.G/TATSUNOKOおよびスタジオディーン。
公開は1989年7月15日。興行収入は約6億円。
1993年には続編となる『機動警察パトレイバー2 the Movie』が公開されています。
あらすじ(序盤のネタバレを含む)
東京湾岸では、政府主導の東京湾開発計画『バビロンプロジェクト』と呼ばれる大規模な埋め立て・建設工事が進んでいました。この工事には無数のレイバーが使用されており、都市の形そのものを変えようとする巨大プロジェクトです。
ある日を境に、東京湾付近の工事現場でレイバーが次々と暴走する事故が起きはじめます。調査の結果、原因は大企業『篠原重工』が配布した新型OS『HOS(ハイパー・オペレーション・システム)』に含まれた、何らかのプログラムであることが疑われます。
特車二課の面々は、HOSの開発者である天才プログラマー『帆場暎一』の経歴を洗いはじめます。しかし、帆場はすでに東京湾に飛びこんで死亡しており、手がかりは断片的なものばかりです。
彼は何のためにあのプログラムを仕込んだのか。捜査はバビロンプロジェクトの要となるレイバー用海上プラットホーム『方舟』へと向かっていきます。
作風・感想
アクションあり、捜査あり、笑いあり、緊張ありの作品です。人型ロボット『レイバー』が活躍するが、あくまで舞台装置といった側面が強いです。
謎解きとしての面白さ
物語の大部分は『帆場暎一とはどういう人物か』を解き明かす捜査劇で占められています。犯人はすでに死んでいるため、直接の対話も逮捕もありません。遺された手がかりをひとつひとつ拾いあげ、動機と計画を推理するという、ミステリに近い構成になっています。
ポイントは、捜査がなかなか進まないことです。帆場は意図的に痕跡を消しており、得られる情報も断片的で的を得ません。視聴者も登場人物と同じペースで少しずつ情報を得ていくため、真実が見えてきた瞬間の手応えが大きいです。
事件の全貌が見えてくるにつれ、帆場が単なる犯罪者でも単なる狂人でもないことがわかってきます。彼が何を見て、何をしようとしたのか。それが明らかになったとき、単純に『事件を解決した』では終わらない、複雑な感情が残ります。
レイバーが主役ではない
本作でレイバーが派手に動くシーンは、実質的にラスト近辺にほぼ集中しています。ロボットアクションを期待して見ると肩透かしを食らうが、長い捜査劇があってこそ、アクションシーンが映えます。
また、レイバー同士が戦うシーンの迫力も特筆すべきで、機械がぶつかり合う時の物量感や重さの描写が丁寧です。軽やかにアクションするのではなく、鉄の塊がギシギシと力をぶつけ合うような質感があり、そこが独特の緊張感を生んでいます。
監督が描く東京都市
雨に濡れた高架下、整備工場の蛍光灯、埋め立て地に建ち並ぶ工事用機材。作中に描かれる東京のディテールは徹底的にリアルで、異様に息苦しい空気を帯びています。
バビロンプロジェクトという名前自体が象徴的で、旧約聖書の『バベルの塔』と重なる意味を持ちます。高くなり続けるものは必ず崩れる、というメッセージが静かに漂っています。
登場人物が等身大
特車二課のメンバーたちは、ヒーローとして描かれていません。事件の全容を最初から見通せるわけでもなく、捜査は試行錯誤の連続で、何度も行き詰まります。
それでも諦めずに手がかりを追い続けるのは、自分たちが守るべき街が危ないからです。大げさな使命感を叫ぶシーンはほとんどありません。ただ、自分の仕事をやる。そういう地に足のついたキャラクターの在り方が、作品全体のリアリティを支えています。
登場人物
特車二課
警視庁警備部に所属する特殊部隊。レイバーを使った犯罪や事故に対処することを目的として編成されました。正式名称は『警視庁警備部特殊車輌二課』。
部隊はふたつの小隊に分かれており、本編で活躍するのは『第二小隊』。
装備しているレイバーは『AV-98 イングラム』で、篠原重工が開発した警察専用機です。携行武器として拳銃型の『98式自動追尾拳銃(オートガン)』を標準装備しており、状況に応じてライアットガン(散弾銃)なども使用します。
組織上の立場としては、予算や人員の面で冷遇されがちな部署として描かれており、第二小隊の指揮官『後藤』が何かと上層部と折衝しながら部隊を維持している様子がTV版では繰り返し描かれています。劇場版でもその空気は引き継がれており、組織の中の『はぐれ者集団』という雰囲気が、特車二課の独特の居心地のよさを作り出しています。
帆場暎一
本作の事件を引き起こした張本人だが、直接の登場シーンは冒頭のみ(しかも口元だけ)。捜査中に集まる生前の情報も断片的にしか出てきません。
※後年に発売された書籍では全身がしっかり描かれているが、あえて口元だけしか見せずに終わらせることで、どういう人物かを想像させる監督のセンスが光っています。
天才プログラマーでありながら、都市開発と近代化の進行に対して思うことがあったようです。それを激情としてぶつけるのではなく、システムの内側に静かに仕込む。それが帆場という人物の異様さです。
彼がバビロンプロジェクト、そして東京という都市そのものに何を感じていたのかは、最後まで完全には語られません。証言もばらばらで、遺書や、動機の核心に触れる記録はほとんど残っていません。にもかかわらず、捜査が進むにつれてある種の人物像が浮かびあがってくる。その輪郭の描き方が巧みで、最後まで帆場がどういう価値観で動いていたか断言できない感覚が残ります。
都市の暴走を、都市が作り出した機械によって引き起こす。その計画の構造自体が、帆場のメッセージになっています。何かに向けての告発なのか、それとも純粋な破壊衝動なのか。見終えた後もしばらく頭から離れない人物です。
まとめ
ロボットアニメの皮を被った都市論的ミステリです。派手なアクションを期待すると裏切られますが、それを承知で見ると、作中に仕込まれた膨大なディテールと重層的なテーマに驚かされます。ゆっくり推理しながら見る映画が好きな方に、特におすすめしたい一作です。















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