『異世界薬局』をおすすめしたい!

イントロダクション

『有用な知識は共有すべきだと思う。そうして共有された知識から新たな発見が生まれ、その継承と蓄積のサイクルが人類をよりよい発展へと導くから

西暦二〇XX年、日本。世界に名だたる成果を出す薬学研究科に准教授として勤務する薬学者『薬谷完治(やくたにかんじ)』は過労により命を落とし、宮廷薬師の名家『ド・メディシス』家の次男『ファルマ・ド・メディシス』として転生しました。

中世ヨーロッパ相当の時代ながらも守護神への厚い信仰と、『神術』と呼ばれる魔法に似た能力が存在する異世界で生きていくことになったファルマですが、祈祷に占星術、数秘術など呪術まがいの民間医療が横行している状況に絶望します。

ちゃんと効く薬は少ないうえに高く、貴族と平民によって受けられる医療も異なることをファルマは憂い、医学の普及と奉仕のために行動を起こしました。

異世界に転生したファルマにはあらゆる病を見抜く『診眼』、分子構造を正確にイメージできるならどんな物質でも生成する左手、単純化合物のみですが化合物を念じた時に個別で消せる右手といった能力が備わっており、それらを駆使してまだ治療が不可能とされている疾病を治していきます。

ファルマは自分がいなくなった後も考えて、前世の医療を異世界に最適化させ、医療レベルそのものを上げようと現場を奔走しますが、診眼を始めとする能力を使う度に、影が消えて身体が透明になるといった異変が生じ始めました。

意識は人のまま身体は人外になっていくことに悩みながらも、ファルマは傍観せず病に伏せる人々のために薬を作っていきます。

真に効果のある薬を広く人々に届ける人助けファンタジー『異世界薬局』をおすすめしようと記事にしました。

『高山理図(以下敬略称)』によるライトノベル。イラストは『keepout』

ジャンルは『ファンタジー、医学・薬学』

小説投稿サイト『小説家になろう』にて2015年7月から連載が始まり、2022年6月に完結しました。

2016年から加筆・修正されたモノが『MFブックス』より書籍化されています。

小説は『KADOKAWA〈MFブックス〉』にて既刊8巻まで発売中です。

2022年7月時点でシリーズ累計発行部数は230万部を突破しました。

メディアミックスとして、コミカライズ化とテレビアニメ化が行われています。

コミカライズ化は作画『高野聖』の手で行われており、『コミックウォーカー、ニコニコ静画』にて連載中です。

コミックスは既刊8巻まで発売しています。

テレビアニメ化は『株式会社ディオメディア』により制作され、2022年7月から放送が開始されました。

監督は『魔法少女リリカルなのはシリーズ(無印では演出)』を手掛けた『草川啓造』、シリーズ構成は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の著者である『渡航』です。

また薬剤師職能および薬局機能等に関するPRの一環として、『かかりつけ薬剤師・薬局』に関する広報をテーマとしたコラボポスターが作成され、日本薬剤師会会員が勤務する薬局・病院等、全国約5万3600の施設に配布される予定になっています。

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本作の魅力について、『ファルマ・ド・メディシス』役の『豊崎愛生』は『異世界薬局では、異世界が舞台でありながら、そこで描かれる人間模様や病気の知識などが、とてもリアルで身近なことに感じる作品です』とコメントしました。

 

あらすじ(序盤のネタバレあり)

妹の死をきっかけに薬学に人生を捧げるも、志半ばで過労により命を落とした主人公は、薬師見習いの少年『ファルマ』として転生します。

異世界で未発達な医学を目の当たりにしたファルマは、生前の薬学知識と『薬神』の生まれ変わりと恐れられるほどの能力を駆使して、あらゆる疾病に立ち向かっていきました。

そして10歳ながらも皇帝に薬師としての功績を認められ、帝国では4人しかいない宮廷薬師の資格と薬局の開業を認められます。

許可を得て建設した薬局『異世界薬局(異世界という言葉はファルマのいる世界では一般的でないので、聖域薬局とも呼ばれる)』は、この世のすべての人々が助かるはずの病で苦しまないよう適切な治療を受けられるしくみを形に残したいファルマの夢の1つでした

しかし貴族の子供が店長をやっていることや、平民の識字率が低いことから客足はまばらです

これらの問題を、ファルマは多くの人々と意見を交わしながら改善していきます

貴族平民問わず、適切な治療、適切な薬を得られる環境を目指すファルマでしたが、異世界においては都市ごと焼き払うしかない感染病の脅威が迫っていました。

 

作風・感想

本作は異世界に転生した主人公が、前世の知識と与えられた能力を駆使して疾病を癒す薬を生み出していくストーリーです。

異世界ファンタジーながらリアルな病名と治療法を細かく解説

医学系研究職で医学博士(Ph.D.)である『高山理図』が大勢の専門家、医療従事者の指導を受けながら執筆した『実在する医薬品と疾患』が題材となっている作品です。

そのため魔法に似た『神術』が登場する異世界ファンタジーでありながら、あくまで薬を使って疾病と戦うのがメインになっています

また実在する医薬品を取り扱う作品のため、小説版より後に制作されるコミカライズ版では、医学の進歩よって薬や治療法が以前とは変わっていることがあり、原作と展開が変わったという制作秘話がありました。

薬や治療法、疾病について細かく解説されていますが、怪しげな民間療法が主流である世界のキャラクターたちにもわかるように主人公が噛み砕いて説明するため、読者サイドにもわかりやすい内容です。

解説や説明ばかりのストーリーではなく、会話の合間に挟まるギャグシーンや主人公の身体に起こる異変の謎など、異世界ファンタジーらしい要素もしっかりと入っています。

主人公の目的は未来にいる人の病も治すこと

主人公には見るだけで病巣の位置を特定する『診眼』や薬の調合に必要な材料を生み出すなど、いわゆるチートな能力を与えられていますが、注射器すらない中世ヨーロッパ風の世界観で患者を診察して適切な薬を用意するためには必須の能力であり、疾病そのものを問答無用で治す能力ではありません

用意できる医薬品で治せない病は治せず、手遅れな症状に対しても打つ手はほとんどないです。なんでも治せる薬やあらゆる傷を治す魔法のアイテムのような都合のいいモノは登場せず、現実と同様に事前の予防と重症化する前の初期治療に重点が置かれています。

また主人公の目的は自分の能力を活かした一時的な疾病の根絶ではなく、この先の未来に続くような医療体制の整備です。そのため主人公以外の人間でも薬を用意できるように(チート能力は隠しつつ)知識を共有しながら顕微鏡など器具の発明、新薬の開発、他の医師や薬師と連携を図っていき、大勢の人間が適切な治療を受けられる環境を作っていくのが見所の1つです。

物語序盤の舞台である帝都では、貴族と平民で扱いが違う身分制社会と薬の価格が高い問題、さらに疾病に対してまともな治療法が普及されていない結果、死亡率が恐ろしく高くなっています。この状況を主人公1人で変えることは現実的に不可能であり、多くの人々と手を取り合って1つずつ問題を改善していきます

その過程が薬師である主人公では関与できない政治的な面からもしっかりと描かれており、たった1人の意志で世界が回っていない描写が丁寧です。物語のタイトルにもなっている『異世界薬局』も主人公1人では決して開業できるものではなく、金銭や人事の面でも援助を受けており、人同士の繋がりが重要になっています。

 

登場人物

ファルマ・ド・メディシス

転生前の名は『薬谷完治』31歳。幼い頃に脳腫瘍を患った妹を失くしており、それがきっかけで多くの人々を救うことができる薬を創ることを目指し、人生を薬学に捧げる薬学者として働いていました

転生後は薬師見習いである10歳の少年として、生前の知識を活かしながら大勢の人々を救うことを決意しています。

幼い頃に亡くした妹のことは根深いトラウマになっており、過労により命を落とすほど働き過ぎてしまった原因の1つです。

自分を見下していた人間や直前まで危害を加えようとしていた敵でも、患者ならば手を差し伸べる薬学者としての矜持と信念を持っています。そのため誰に対しても常に敬語で優しい性格ですが、皇帝相手でも自分の意見を述べるほど意志が強いです

また学会で煽り耐性を鍛えられており、嫌がらせに対しても笑顔で切り返しています。

現代の知識を独占することはなく、またそれを利用して利益を上げようともしません。金と地位と名誉にもまったく興味がなく、無欲過ぎて周囲からは呆れられています。異世界薬局でも当初は小児を無料で診ていましたが、市井の均衡を崩すとして皇帝から『少しでいいから金を取れ』とお達しを受けていました。

『すべての命が生を謳歌して悔いなく散ってゆけるような、人の役に立つ薬をそれを必要としている多くの人のために届ける』ことが行動理念であり、自分の考えが異世界では異端とわかりながらも患者に薬を届けるために奔走します。

三度の飯より実験三昧の学者であり、薬学の話になるととんでもなく話が長いです。

普段は『私』ですが内心では『俺』になっています。

 

まとめ

転生先が10歳のためか、ヒロインは登場するものの恋愛劇はあまりありません。疾病に対して現場で奔走する描写が主軸ですが、主人公がなぜ異世界にやってきたのか、能力を使う度に身体に異変が起こる理由も後々重要になってきます。

気になった方は是非一読してみてください。

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