『継母の連れ子が元カノだった』をおすすめしたい!
イントロダクション
『僕には中学2年から3年にかけて、いわゆる彼女というものが存在したことがある』
彼女とは、誰も来ない夏休みの図書室で意気投合して逢瀬を重ね、付き合いました。
今となっては若気の至りとしか言いようがない、と『伊理戸水斗(いりどみずと)』は振り返ります。
デートに行き、手を繋ぎ、キスもして、些細なすれ違いをきっかけに疎遠となり、中学を卒業する時に別れました。涙が流れることはなく、彼女も待ったましたと言わんばかりの顔でした。
好きだった人が嫌いになっていく苦痛から解放された夜に、父親から『再婚を考えている』と告げられます。険悪になっていた彼女との関係を断てたことで、スッキリとした気分になっていた水斗は反対せずに受け入れました。
むしろ再婚相手に娘がいると聞かされ、高校生になって義妹ができるとかライトノベルみたいだな、とテンションが上がっています。水斗は冷静さを失っていました。
後日、継母となる女性が連れて来た娘『伊理戸結女(いりどゆめ)・旧姓『綾井(あやい)』は、ついこの間別れたばかりの元カノでした。
2人は顔を見合わせて、同時に思います。
『『神様てめぇ!』』
お互いの親のことを想い、昔の話は墓場まで持っていくことを決めた2人は、表面上は仲の良い『義理のきょうだい』として振る舞い、裏ではチクチク言葉とローキックの応酬を繰り返しました。
さらにどちらが『兄』か『姉』かで揉めることとなり(2人の誕生日は一緒)、『義理のきょうだいらしからぬ行動をした方が弟妹になる』というルールで争い始めます。
『あなたの妹にだけは絶対なりたくないわ』
『奇遇だな。僕も君の弟にだけは絶対なりたくない』
付き合っていた頃でさえ苗字で呼び合っていた2人が、皮肉なことに別れた後で名前を呼び合う関係となるラブコメディ『継母の連れ子が元カノだった』をおススメしようと記事にしました。
『紙城境介(敬略称)』によるライトノベル、イラストは『たかやKi』。
ジャンルは『ラブコメ』、略称は『元カノ』。
2017年8月より『小説投稿サイト・カクヨム』にて連載開始されました。
おすすめレビュー数は4600人を超えており、コメント数は2000件以上です。
2018年12月から『角川スニーカー文庫』により書籍化されました。
小説は『KADOKAWA〈角川スニーカー文庫〉』にて既刊9巻まで発売中です。
2022年6月時点でシリーズ累計発行部数は65万部を突破しています。
『第3回カクヨムWeb小説コンテスト・ラブコメ部門』で大賞を取っており、『このライトノベルがすごい!2020~2022年』まで連続でノミネートされました。
メディアミックスとして、コミカライズ化とテレビアニメ化が行われています。
コミカライズ化は作画『草壁レイ』の手で行われており、『ドラドラふらっと♭』にて連載中です。
コミックスは既刊4巻まで発売しています。
テレビアニメ化は『社畜さんは幼女幽霊に癒されたい。』や『 恋は世界征服のあとで』を手掛けた『株式会社project No.9』により制作され、2022年7月から放送が開始されました。
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本作の魅力について、
伊理戸水斗役の『下野紘』は『どこか懐かしさも感じていて、そういったところをコミカルかつ衝撃的に描いている作品です。ひと言で『連れカノ』の魅力を語ることが難しいくらい、いろんなことを感じられるし、いろんな共感が得られるし、笑えるだけでなく、切ないポイントもたくさんある。そんな魅力溢れる作品なので、男性でも女性でも、ご年配の方でも楽しめると思います!』
伊理戸結女役の『日高里菜』は『設定もそうですし、脇を固めるキャラクターもそうなんですけど、個性が強いんです! あとはリアル感というか、この子のこの気持ちわかるなぁって共感できる部分がいろいろなところに散りばめられているんです。設定がトリッキーだとしても、女の子たちはかわいくて、男性キャラもどこか愛くるしさがあるんですね。くすっと笑えるところもあれば、切なかったりグッとくるポイントもあります』
とコメントしています。
あらすじ
『私には中学2年から中学3年にかけて、いわゆる彼氏というものが存在したことがある』
彼氏とは、同じ読書家ということで話が合い、あっという間に気持ちが舞い上がって付き合いました。
今となっては若気の至りとしか言いようがない、と『伊理戸結女』は振り返ります。
お弁当を用意して、クリスマスにはプレゼント交換を行い、貰った消しゴムを鍵付きの箱に入れて夜な夜なご神体として拝み、些細なすれ違いをきっかけに別れました。
その後、母親が再婚して義理の父親に会いに行くと、その息子は元カレである『伊理戸水斗』でした。
昔の関係は周囲に隠し、2人は一つ屋根の下で『義理のきょうだい』として生活を始めます。
しかし付き合っていた頃のわだかまりが原因で喧嘩が絶えません。他人の頃とは違い、義理とはいえ家族なので遠慮がなくなったのが原因です。
ただ物理的に距離が近くなり、遠慮なく言葉をぶつけ合うので精神的な距離も近づいていき、当時は知ることができなかったお互いの深い部分を垣間見てしまいます。
相手を『弟妹』とするために蹴落とし合い、時には『家族』として助け合っていたはずが、ふとしたことで付き合っていた頃を思い出し、いつの間にかお互いを意識していました。
作風・感想
本作は別れた元カップルが、両親の再婚というやむを得ない理由で、一緒に住むことになったラブコメディです。作者曰く『ケンカップルを眺めるお話』。
ストーリーの構成
作品の雰囲気は全体的に明るく、序盤はコメディ重視の短編が多いです。それらが土台となり、徐々に人間関係の変化が増えてくる長編が組み込まれていきます。
ストーリーの主軸は会話劇と心理描写であり、水斗と結女がテンポ良く言い合いながら、マウントを取るために面白い心理戦を繰り広げます。舌戦以外にも、高校生のリアルな言動に共感を感じることや、リアルながらも個性豊かなキャラクターに笑える描写もあり、可愛さと愛くるしさを感じられるのが魅力の1つです。
笑えるだけでなく、『破局した元恋人という関係から来るすれ違い』や『片親同士という家族関係』から切なさを感じるシリアスなシーンも挟まっており、物語に緩急を与えてくれます。
水斗の視点だけでなく、結女の視点で物語が進むことも多いです。そのためダブル主人公といった形で読み進めることができます。これは作者曰く『そもそもラブコメはヒロイン視点の方が面白いんじゃないかとも考えていている』ことが理由です。コミカライズ版では結女視点の描写が更に増えており、視点が変わることでキャラクターの見え方がまた変わってくるのが面白さの1つになっています。
元恋人のラブロマンスなため、別れた原因(嫌っている部分)があるのでそのままヨリを戻すことはできず、義理のきょうだいになったことで遠慮なく『どうしてあの時はそうしなかったのか』などストレートに聞いて本音をぶつけ合い、ズレていた関係を正していくのが見所になっています。お互いの嫌な部分を言い合う描写は重くなり過ぎず、あくまで明るい雰囲気のもどかしくも甘酸っぱい感じで話が進んでいくので、人間関係の闇に気が重くなることは少ないです。
本が好きなキャラクター達によって作られる世界観
主人公2人は読書好きであり、根は陰キャです。その設定がセリフ、ギャグやシリアスなシーンにもキチンと活かされており、水斗は『思慮深くかっこよく見えるが、勢いのある人間(陽キャ)が苦手で恋愛面もヘタレ』、結女は『高校デビューで優等生を演じているが、根は変わりきっておらず時々良い意味で気持ち悪い部分が出る』といった個性に繋がっています。
主人公以外の登場人物たちも個性豊かなキャラクターが多く、軽薄な友人Aという脇役かと思いきやしっかりとしたバックボーンを持ち、少しずつ明かされる秘密で物語をかき乱したり、ストーリーの進行に欠かせない人物になっていきます。
そのため2人以外の視点で物語が進むこともあり、それぞれの人間関係がしっかりと描写され、そちら側の変化も見所になっています。結果として視点移動が多くなっていますが、その分各キャラクターが胸に秘めている心理描写が濃厚です。
秘密が明らかになっていくのは水斗と結女も同じであり、キャラクターを知り尽くしたと思ったら、物語の進行と同時に明かされる付き合っていた頃の話で新たな一面がわかります。どうして付き合い別れたのか、それが現在とどう関わっていくのかは重要な部分です。
登場人物たちは現在進行形、もしくは過去に何かしらやらかして闇を抱えています(水斗と結女なら昔付き合っていた頃のイチャイチャ話)。それを腫れ物を扱うように迂回するのではなく、お互いに弱点を狙う形で塩を塗り合い、時に自爆するので面白いです。そうして一歩ずつお互いを理解していくので、闇の部分を持ちながらも前向きなストーリーです。
登場人物
伊理戸水斗
ジャンル問わず濫読派な読書家です。
『ハードボイルド』を自称する物静かで思慮深い性格をしており、なにを考えているかわからないポーカーフェイスが得意なので、舌戦になると結女を言い負かします。基本的に弱みを見せた相手(特に結女)は容赦なく言葉でボコボコにしますが、優しさを持ち合わせているので両者のバランスを保つために折れることも多いです。
父親に男手一つで育てられた過去から、自分のことは自分で考える必要があり、周囲に頭のリソースを割り振る余裕がなかったため、思考量が多く大人しい現在の性格に育っています。
そのため次の次を考えて動く理屈っぽい部分があり、結女との舌戦では優位に立ち回りますが、反対に言いくるめられると理屈に縛られて動けなくなるのが弱点です。
『雰囲気で点を取ってしまうタイプ』と自負するほど成績優秀で、特に現国の成績は全国模試2桁台でした。これは365日毎日読書をしているおかげだと本人は言いますが、そういった積み重ねを除いても地頭が良く、学業全般が優秀です。
逆に運動はやる気がなく、身体測定の腹筋をギブアップと言って放棄するほどでした。
ファッションも無頓着であり、髪はボサボサのまま上下スウェットで外出しようとします。
素材自体は悪くなく、クラスメイトからの評価は『けっこーイケメン』であり、結女にも『まつ毛が長く唇は薄い、肌もキレイ』と言われていました。
ただ雰囲気が暗い、ノリが悪いとも評されており、友達は少ないです。本人も明るい人間(陽キャ)を苦手としていますが、物怖じして何も言えなくなったり、周囲に流されて自分の基準から外れることはなく、言いたいことはハッキリと言います。
死別した母親のことは写真でしか見たことがないため、記憶も思い出もありません。父親もあまり語ることがないので知識もなく『母親がいなくて寂しい』という気持ちがないので、周囲から可哀想と思われても困惑するだけでした。
結女と付き合っていた頃の話は闇と化しており、当時の自分も結女も『くたばれ』と思っています。
恋愛面に関しては、普段のハッキリとモノを言う態度が鳴りを潜めてヘタレになり、付き合っていた時に結女を家族が居ない家に呼んだにも関わらず手が出せず、自分からデートに誘うことができなかったほどです。
『義理のきょうだい』となった結女とは最悪のスタートを切っていますが、結女のことをよくわかっているので失態を演じたり、無理をしている時にフォローするなど、何かと気遣っています。また女性として意識することもあり、その度に困惑していました。
料理はそこそこできます。夜型の人間で、虫と炭酸が苦手です。
伊理戸結女
本格ミステリー専門の読書家です。
昔は幼女体型でしたが、現在ではスタイル抜群であり、男子からの人気も高いです。
中学性時代はスーパー根暗と振り返るほど人見知りで、体育の相方にすら事欠いていました。水斗の交際をきっかけにコミュニケーション能力が鍛えられ、かつての弱虫から脱皮するために、性格と見た目を変えて高校デビューを果たします。
結女を褒めることが滅多にない水斗が素直に認めるほど努力家であり、高校デビューを果たすためにファッションの勉強をして、高校も主席で入学することで新入生代表となり、クラスカーストの頂点を取りました。
数学の全国模試二桁台の優等生で、学年トップの成績を誇っています。
ただ運動神経は今一つであり、それでも『同じ学年の誰もが知る才色兼備の完璧女子高生』というイメージを守るために特訓をしてそこそこの記録を出していました。
そのような経緯のため、クラスメイトと楽しそうに話していますが、努力しなければ維持できないと思い込んでいる節があり、無理をすることが多いです。
性格を変えたとはいえ、根っこの陰キャな部分は時々顔を出します。明るいクラスメイトに気圧されたり、友達と初めてのファミレスに緊張するなどは可愛い方で、自分の妄想を現実にしたような学生家庭教師風のスタイル+眼鏡を見た時は、興奮が収まらず写真に収めて悦に浸っていました。また重度のミステリ脳であり、落ち着くために密室トリックを考えるゲームを脳内で行い、水族館の水槽を見て溺れた人間が流れて来そうという感想を漏らしています。
基本的に水斗が絡まなければ大人しい言動ですが、勢いでとんでもないことをやらかすトラブルメーカーです。優秀なはずですが鈍臭い部分があり、思いついたことを深く考えないで実行する度に、水斗からフォローされてチクチクと指摘されています。しかし、その行動力が他人を動かすパワーになることをも多いです。
家族のことは大切にしており、水斗がコケにされていた時は腹を立ています。また他人と家族になるということを一度失敗した母親の不安(ちゃんと水斗の母親になれているか)を感じ取り、母の日に水斗からプレゼントを贈らせていました。
水斗と付き合っていた頃の話は闇と化しており、当時の自分も水斗も『くたばれ』と思っています。
恋愛面に関しては強きに振る舞って自爆したり、場の雰囲気に流されることが多いです。水斗が絡むと感情をかき乱されて泣いてしまうこともあり、馬鹿みたいと自嘲していました。
料理はできず手を絆創膏だらけにします。好みのタイプは『線の細い体型、さらさらの髪、細くて長い指、ちょっと悪い目付き』です。苦手なことは地図を読みことと虫。
まとめ
どこかザンネンな部分を持つ主人公たちのラブコメディです。結女にちょっと気持ち悪い部分があるのが、理想の彼女ではなく等身大の彼女に見えます。
気になった方は是非一読してみてください。
ディスカッション
コメント一覧
この作品の見どころはやはり「再発見の過程」、過去と現在の狭間で互いを見つめ直して相手のも自分のも真意に気づいていく様だと思う。
再発見したあとで、その気づきをどうするか思い悩む心理描写も良き